第17回

  

 

 九年前にアユタヤに建設する工場の建築設計の段階で、開口部の方角や必要な強度などを決めるため降水量や風向き、風の強さなどのデータを調べました。すると最大風速毎秒四十メートルという数字にぶつかりました。映画「南太平洋」(でしたか?)じゃあるまいし(確かに同じ熱帯ですが)いくらなんでも四十メートルとは・・・

 アユタヤの平地でも風雨が激しいときでせいぜい十メートルぐらいのレベルのように感じていましたし、先輩の日系企業のいろいろな方に聞いても「そんな強風の経験はないですねえ」というわけで、半信半疑のまま建物は人並みの強度仕様で建てました。

 操業を始めて数年、そんな数字があったことも忘れていたある週末の夜、激しい雷雨とともに突風が工場を襲いました。スチール波板の屋根が捲れあがって飛び、風下側の壁面の窓ガラスが何枚も割れ、避雷針が倒れ、開口部のシャッターが破壊されました。屋根が飛んだエリアは機械や材料がびしょぬれです。多くの会社が被害を被ったようでしたが、ひどく壊れた建物のすぐそばの建物がまったく無傷だったりして、局所的に気流の強弱があったようです。あとで聞いたところ瞬間的に三十メートル以上の風が吹いただろうということでした。

 このときは「なるほど記録と言うのは嘘ではないのだな」と唇を噛みしめました。では何千日に一回突然おそう四十メートルの風に備え十分に耐えられる建物を作るかどうか、その被害や修理コストの想定も含め単純ではありませんね。毎秒四十メートルというデータが教えてくれるものはあっても答えを導いてはくれない・・・難しいものです。数字は教えてくれるようで教えてくれないときがあり、時に自然は「データさえあれば合理的な対応ができるはず」という人間の軽率な思い込みを戒めるようです。

 (了)

 

 


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