第40回

不景気

  

 

  先日東京に出張したときJRの駅からホテルまでタクシーに乗ったと思ってください。タクシーの運転手さんとの会話となると景気の話です。最近日本の新聞にあるタクシーの運転手さんの言葉として「以前はお客さんが十人いたら十人が不景気と言っていたのが、最近は二人ぐらいは少し良くなってきたと言うようになった」ということが載っていました。そこで早速訊ねてみました。「そんなことはないですねえ。良くなって来たなんていうお客さんはいないですよ」はあ、そうですか。

「タイではメイドさんを何十人も使ってみんな豪勢な暮らしをしているそうですねえ」
「ははは、それは話がかなり大げさになってますねえ。何十人なんてことはないですよ。一人使っているかどうかでしょう」
「人件費安いんでしょうねえ」
「確かにできることとの比較でいったらかなり日本人より安いことは間違いないですねえ。だから日本人が何ができるのかが問題なんですけど」
「教えられることがあるうちが花ですね」
「昔は日本人の収入はアメリカ人よりもずっと低かったけど、今じゃこうですからねえ。タイの人の収入が日本人並になるなんてなかなか想像できないですけど、日本人がアメリカ人が高給取りになるなんて昔は誰も考えていなかったですから」
「実は私もハンドバッグ作ってたんですがね、去年廃業したんですよ。取引先が中国から買ったほうが安いって仕事がすっかりなくなって」
「事業されていたんですか」
「まあ、そんなもんです。子供が、大学生から中学生までね、三人いるんですよ。困ったもんです」

 見れば結構な年輩でもこうして就く仕事があるのが幸せな部類なのだろうか。こういう運転手さんが増えてタクシーもより不景気になることもあるかもしれないとも思い、でもまさか車が増えていることはないだろうと否定したり、いろいろなことを思いながら何も次の句が告げないうちに幸い車は目的に着き、「どうもお世話様」と車を降りた筆者でした。。

〈了)

 

 

 


目次に戻る