第42回

クラスター(下)

  

 

 タイにはいくつか優位性の高いクラスターが形成されているとも言えます。その一つは自動車産業であると思います。バブリーな国内需要に引きずられて乱立した?完成車工場の操業度の低さなどを見るとそれは産業政策の失敗と見る人もいるかもしれませんが、見方によっては次のレースにおけるポールポジションの位置にあるという姿も見えてきます。

 インドネシアやマレーシアが肝いりの国産車政策をとって技術の国産化に取り組みましたが、比較的自由に外資にやらせたタイは多くの完成車工場をもつことになりました。タイには国民車というようなものはありません。しかし日米欧の自動車会社が入り乱れて立地したこの国に、必然的に自動車部品や素材のサポーティング・インダストリが集積しました。結果的にクラスターの形成が行われ、技術やノウハウの蓄積も進んだ(でいる)と言えるでしょう。

 人口や市場規模(それがバブルがはじける前であったとしても)、所得水準の臨界などさまざまな要因が影響もしているでしょうが、国産主義の強い国民車構想が生む保護主義のもとで競争をどう維持し外国の技術のTTをどうはかるかなど、知恵を絞って作られた各国の産業振興政策の差が結果に現れているといえないでしょうか。

 頭で考えた計画で国家政策としてリソースを集中投下した国よりも、こんなふうに何となくやっている(ように見える)所にクラスターが形成されてしまうのです。かように産業政策はまだ政策立案者が未だ勘所をものにしている世界ではないのでしょう。このようなタイ人の「無意識を装う自然体の賢さ」が意識したものなのかそうでないのか筆者にとって以前からずっと謎のままです。日本がいろいろな面でタイの産業政策を指導するようなことが多いのですが、裏ではタイの官僚が舌を出しているような気すらします。

〈了)

 

 

 


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