第43回

帰る日

  

 

   このごろドンムアン空港の出発ロビーを歩いていると、突然大勢の人の拍手が聞こえたりすることがあります。振り返ると出国手続きのゲートに日本人や日系企業の制服を着たタイ人の団体が、スーツを着て荷物を抱えた日本人とその家族を見送っています。「ああ、駐在員交替の季節がまたやってきたのだな」と思います。

 比較的日本に近いタイですから、駐在員とその家族も普段から一時帰国の頻度は低いわけではありませんが、それでも本帰国となると「とうとう帰るのだ」と言う感慨も湧くものでしょう。いろいろ理由や事情の違いがあるでしょうが、皆それぞれに駐在の終わる日を噛みしめているに違いありません。このタイでの駐在の期間をマンネリのサラリーマン生活の日々であったと総括する人は少ないことでしょう。思い出は美しいと言います。マイペンライに憤った日々もいずれ海外赴任の苦労話として語られることでしょう。

 バンコクに住む日本人が三万人居て平均五年の滞在をするとしたら、毎年六千人が来て六千人が帰って行く計算になります。ならしても一日二十人ですから、この転勤シーズンであれば同じ飛行機に帰任する駐在員が十人ぐらい乗り合わせていても不思議はありません。おなじみとなったフライトももうしばらくは乗ることもないと思えば感慨もひとしおです。かつて会社の大先輩が台湾での駐在を終えて帰るときに涙が止まらなかったという話をしてくれたことがあります。私自身タイ駐在を終える日を思うとそれもよくわかります。

 帰れる日を指折り数えるだけという人もあるかもしれません。また、仕事の締めくくりや引き継ぎをどうするか考えている人もいるでしょう。いずれにせよ、いつか帰る日が来ることを意識するのが駐在という仕事です。

〈了)

 

 

 


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