第50回

異常気象

  

 

 四月中から始まったシャワーは例年よりも一月以上早い雨季の始まりを告げるものだったのでしょうか、五月も半ばを過ぎるとすっかり本格的な雨季の様相を呈しています。冠水した道路を原因とする渋滞が夕方から深夜にかけて続くのも「ああバンコクにいるのだ」と感じる事象のひとつです。

 国土の一部で水不足の続くなかで、メナム・チャオプラヤ流域は洪水が懸念されています。アユタヤ方面、アジア・ハイウェイの貫く田園地帯は、水路をあふれた水が高床の家々の床下を水没させはじめています。こういう光景はこれまで雨季の終わりに熱帯性低気圧が風雨をともなって各地を襲うようになってから見られるのが例年のことでした。確かにタイの風景ですが、時期が違っています。

 ハイウェイの脇には稲や葉の細い雑草が生い茂っていますが、その繁茂の隙間に見える茶色の水面が毎日少しずつ広くなっている様子は、季節はずれの洪水の被害が長く、規模の大きなものなることを心配させます。

 九十五年、九十六年と続いた洪水のときには、アジア・ハイウェイはどこまでも広がる水面に伸びる一本の筋、フロリダ・キーウエストにつながる海上ハイウェイのようでした。中央平野を一ヶ月近くも覆いつづけた洪水の水量はちょっと計算しても気の遠くなるような膨大なものです。

 日本の洪水といえば鉄砲水という言葉のあるように緊迫感のあるあっという間の惨事ですが、チャオプラヤ川流域のそれはペースが異なります。毎日毎日数十センチずつ嵩の上がってくる水面を見守り、土嚢を積んだり、家財道具を屋根裏に移したり、船を出したり、胸まで水につかりながら会社に毎日出勤したりの長丁場が続きますが、これもまたスケールの大きな自然との闘いです。

 これから数ヶ月雨の続くことを思うと不安を感じることです。

〈了)

 

 

 


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