第57回

アキレス腱

  

 

西側外交官の発言として伝えられた「タイには比較優位なものがある、セックス産業とゴルフ場だ」という言葉が先週後半の大きな話題でした。

この言葉は先週発売されたニューズウィークの記事の中にあったものです。記事全体の論調は、危機を脱して再度成長路線に戻りつつあるアジア経済も楽観は許されない、というものでした。とりわけタイにページを割き、復調しつつあるとは言ってもタイの経済や社会において必要と思われる改革が進んでいないことを厳しく論じていました。

今年はプラス成長が見込まれるなどタイ経済は底を打った印象があります。現状を見れば、インフラ、人の能力などの産業の基盤とコストはそれなりに釣り合いがとれしっかりした国際競争力があるように感じます。しかし、韓国やシンガポールを見ると、上昇したコストに見合って着実に高付加価値産業へのシフトが見られますし、人材豊富な中国が安かろう悪かろうの世界から脱却しつつあります。前と後ろの国々を見たとき、タイ経済の中長期的な将来における競争力に不安がないわけでもありません。

ニューズウィークの記事はその不安の根底にあるものとして「人材育成の遅れ」とそれによる「結局の外資頼み」を取り上げていましたが、これはまさに正鵠を得たものであると思います。1997年7月のタイの通貨危機までは物価と労働コストの上昇する一方で技術力向上が追いつかず、筆者も製品の競争力の限界を感じ危機感を抱いていました。通貨の下落とその後の安定により時間を稼ぐことはできましたが、底流にある問題は変わりません。人の能力はタイ経済のアキレス腱であると言ってよいでしょう。

冒頭の言葉で騒ぎになってしまいましたが、それによって記事の主旨が省みられなくなるとすれば大変残念なことです。

〈了)

 

 

 


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