第59回

ATM

  

 

 タイ旅行から帰ったあと、日本の銀行口座の預金をタイから引きおろされてしまったという事件が起きました。最近は海外からカードで預金をおろせる便利な世の中になりましたが、新たな落とし穴もできました。 幸い筆者はこれまでこの種の被害にあったことはありませんが、ATMと聞いて思い出す小さな事件が二つあります。

 一回目はタイに赴任して間もないころ、金曜日の夕方A銀行の口座から現金を引き出そうと提携銀行のATMを操作したときのことです。金額を入れて確認キーを押すと通信エラーになってしまいました。もう一度繰り返すと同じエラーです。

 別のATMに行って引き出そうとすると「引き出しの限度を超えています」というメッセージです。こちらは現金を手にしていないのに、取引が記録されたようでした。

 落ち着かない週末を過ごしたあと、月曜の朝A銀行へ飛んでていくと、記録を調べてすぐ残高をなおしてくれました。筆者は何も証拠を持っていないのに、その応対があまりにも素早く人を疑うそぶりも見せないので驚きました。しかしなんとなく思い当たることがありました。それは筆者の着用していたスーツとネクタイの効用でした。

 もうひとつの事件は最近ですが、盛り場のATMでキャッシュを下ろして、待たせていた客のところへ急いでいたときです。後ろからかけてきて肩をたたく人がいました。振り返ると筆者のATMカードと明細を手にした若いタイ人の男の人でした。あわてていたので現金だけとってカードと明細を起き忘れてしまったのを、並んでいた人があとを追いかけて来てくれたのでした。自分の迂闊さに動転している間にその人は立ち去ってしまいました。良い人のおかげで助かりましたが、なんというか、バンコクではありそうもない、そしてまたありそうでもある出来事でした。

〈了)

 

 

 


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