第72回

比較文化?(6)

  

   

 前回まであまり異文化異文化と気をとられないようにという話をしてきました、それは巷にタイでは日本と違ってこうすべきだという話ばかりたくさんあるからとご理解いただきたいと思います。しかし比較文化というタイトルで書いてきたらやはり違いにふれないわけにはいきますまい。

 かつてタイでいっしょに仕事をしたある同僚は欧州駐在の経験のある人間でしたが、あるときしみじみ言ったものです。「ヨーロッパではさあ、部下に仕事をやってもらうとき、下手をするとなぜその人がその仕事をしなければならないのか説得するのに丸一日かかるんだよ。タイはイエス・サーですぐに帰っていくだろ。ほんと楽だよね。ただ出来上がってきたものが望んでいるものとぜんぜん違うんだけど。」

 思い通りに行く面と行かない面と両方があるのですが、普段は思い通りに行かない面に気をとられています。「わかりました」と帰っていった部下ががっかりするような勘違いのアウトプットを仕上げて来ても、「そうではない、こういう意図でこういう風にやってほしいんだ」とよく説明して、また「わかりました」と帰ってゆく。その繰り返しの中でだんだんと思い通りにゆくことが多くなってゆきます。

 業務を遂行する上で思い通りに行かないことは大問題ですが、タイ駐在員にとっての陥穽は「思い通りに行く」ことの背後に隠れています。いつしかすべてが自分の情報収集力、分析力、判断力そして勇気と決断力の範囲でしか行われなくなってしまいます。日本でなら部下が納得できないような表情をみせたり、時にはくってかかってきたりすることがありますが、当地ではまずありません。思い通りに行かないことが少なくなったらそれはほんとうに会社にとってよい状況になっているのか要注意です。

つづく) 

 

 


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