第88回

事業計画

  

 

 筆者はタイに来るまでにも事業計画を作って答申する仕事を少なからずしてきました。が、実際に立てた計画に従って事業を実行する立場に回ったのはこのタイの工場作りが初めてでした。

 計画スタッフが実際の立上げで苦労する人間の立場を考えると最初に作る計画は安全を多く見込んだものになります。当然採算性はあまり良くありません。そこで検討を重ねどうにか許容できる収益率を見込んだ計画になる頃には、低めの調達価格、抑えた設備投資、少ない要員が前提になっていることが多いです。

 実行段階に入ると立上げ業務にアサインされた人間からは「こんな事業計画誰が作った」というコンプレインが出ることが多いです。実際新規の海外拠点立上げともなれば大変な苦労があります。筆者もそれまで新工場を計画する際、そういったプレッシャーを感じながら遠慮があったと思います。

 ところが実際に実行する立場になって、それなりに辛酸を舐め経験を積んでいくうちに別の考えをもつようになりました。確かに同僚の中には「計画する奴は簡単に考えてくれるよ」という人間が多くいました。しかし「私にも責任がありますね」と云いながらも「与えられた計画が厳しいと云ってるような人間が自分でたてる計画ではだめなんですよ」と付け加えるようにもなりました。

 なぜならそういう人たちが自らもっと楽に成果の出る計画が作れるわけでもないことが見えてきたからです。いったんコミットしながらも後で人の作った計画のせいにするような人間は、もともと視野が狭く、自分で計画してもいずれ失敗を環境の変化や他人の邪魔のせいにするものです。それくらい頼りない人が多いというのが現実です。

 実行し易い事業計画を遂行してもそれでビジネスに勝って行けるわけではありません。

〈了)

 

 

 


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