第96回

技術技能(2)

  

 

 現在では誰もがタイに来て工場を運営ことができ、時間さえかければ皆が同じコンピュータシステムや経営管理手法を導入することができるといっても過言ではありません。品質や価格で差別化を図り競争力をつけてゆこうとすれば、最後はそういった方法論とシステムそのものより、その開発、導入、運営にかかわる人間の能力に行き着くことが簡単な思考実験でわかります。

 標準化や手続化、あるいは選択肢を列挙して優劣比較を行う意思決定方式など、時間がたっぷりあった古い時代のやり方だけでは立ち行かない現在、日本の製造の現場ではコンベアを使ったライン生産方式から、人間のスキルを最大限に生かすセル生産方式への転換が進んでいます。

 この背景にある理屈を言葉で述べてもあまり説得力はありませんが、個人や生産システムが自らの能力向上を不断に行うやり方の良さはやってみればわかります。頭で考えただけではわかりにくい部分ですが、トヨタやGEの強さはひとえに通常の運営のなかに自身の能力を高める体質をビルトインしていることにあります。

 日本企業では方法論をこねくり回しシステムや手法を時間をかけて吟味しますが、実施効率を左右する人間のスキルを問うことがあまりありません。これには個人の能力を突き詰めない日本の平等教育の弊害も感じられます。

 安直な方法による差別化は長続きしません。タイでの人材育成、その果実の豊かさは育つ方、育てる方、双方の実際に流した汗の量によります。タイではついつい個人差を排除する標準化一辺倒になりがちですが、数千人を擁する大工場でも個人名でひとりひとりの技量を上げてゆくべきでしょう。これからの企業競争力のキーファクターのひとつに「個々人の能力」という言葉があることは間違いありません。

〈了)

 

 

 


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