サイレント・プロフェッショナルズ

    

昨日7月3日にバンコクのリージェントホテルで日本政府のアジア経済危機対応の補正予算で組まれた、AOTS(the Association for Overseas Technical Scholarship 海外技術者研修協会)の「アジア経済危機支援研修生受入計画」とJODC(Japan Overseas Development Corporation 海外貿易開発協会)の「専門家派遣事業」のアジア支援特別プログラムの説明会がありました。

これらは、平たく言うと日本へ研修生を派遣したり、講師を呼んだりして研修や実習をしたり、日本から専門家を呼んで技術指導を行ったりするのに資金的な補助を受けられる制度です。これらは通常年間の政府予算で運営されていますが、アジア経済危機に際して日本がアジア各国を支援するパッケージの一部として、今回の補正予算で特別な追加予算が投入されたのです。来年の3月31日までにこれを活用するのはかなり忙しい作業になります。

リージェントホテルの大きなボールルームの会場に準備された席は半分ぐらいしか埋まりませんでしたが、ざっと数えて100人乃至150人の方が話を聞きに来ていました。資金的な援助が得られるという実利的な面も大きいのですが、自社のためは云えこれぐらい日本企業も、タイへの技術移転のために人材育成を真面目に行っているという事実はそれなりに覚えておく価値があります。

私の経験からも実際に政府予算の補助を受けるのは、今あげた消化年度の問題や数年次に渡る補助であれば年度のごとの配分など、いろいろ制限が生じてなかなかうまく使いこなせないケースが多いのですが、それでも人材育成投資のリミットをそれで少しでも広げられるのなら願ってもないことです。政府支援を受ける受けないにかかわらず、タイの実務家育成に投入されている日系企業のリソースには膨大なものがあります。養成されている技術者や技能者の人数を考えればかなり大きな貢献です。

私たちが企業活動として行う行動のなかにはちぐはぐなこともありますが、総じて日系企業の活動を見ていると、その真摯なことには頭がさがります。たとえいろいろな理由でタイ人従業員のパフォーマンスを嘆いているような人でも、個人としてはともかく企業人としては、問題を克服するために何をするか常に考え行動している姿があります。

タイ人従業員にいわれない言葉をあびせたり、いない場でぐちや泣き言をこぼすことがあっても、そういった日本人とタイ人の相互作用のなかから、現実に旋盤を操作して金属を削ったり、自動車の修理をできるようになったりする人間がひとりひとり増えていくという事実は動かせないものです。

技術移転や人材育成の方法論や思想を問う前に、本当に役に立つ人材を育成していくために、まず毎日相手に価値を提供して貢献していなければなりません。企業人である駐在員はタイ人やタイを理解することも重要だが、それよりもタイでタイ人と一緒に仕事をして役にたっていくことが果たさなくてはならない使命です。

日本人だからとか先進国の人間だらかということでなく、誰かほかの人やみんなの役に立つ何かを授けることのできる人間であるから、それを一つ一つ与えていくわけです。今日、何を自分が誰かに提供することができたかにつきます。このことがわからない人はもともと世の中に自分が貢献する価値を持ち合わせていないのです。

技術移転のやりかたや効率をいくら論じても、技術移転は進みません。またNCフライスのプログラムを組むことにどういう意味があるのかわからない人が、いくら技術者養成の実績の統計を分析して論文を書いても技術移転にどのようなはたらきができるのかは疑問です。

なぜこんなんにも真摯に行動し、実績もあげている企業や企業人が、「あえてすすんで行動したがために発生した問題」をとらえられたりして、時には「営利行動」という一言で蔑まれることすらあるのでしょうか。

昨年、環境関係の政府の委員会などでお仕事をされているある大学の教授が私の勤務先を訪問された際、「日本企業が海外で環境保全に真面目に取り組んでいる姿は実態が世間に知られていない。もっと正しく知らせなければならない。」とおっしゃっていましたが、そのようなアピールが必要という人もいるでしょう。

しかし実務家の精神はそういうものを超越しています。実務家に勲章や褒め言葉はいりません。だまって毎日努力を続けるだけです。高邁な思想や社会的意識があろうとなかろうと、人格が高潔であろうなかろうとそれは同じです。世の中を、社会を築いているのはあたりまえのように存在しているそういう努力であることを真面目な人たちは知っています。紛れもなく「働いている」人たちがそこにいます。

 


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